アクターA(Agent)は、E-コマースにおける他のアクターの利益を代表することで存在価値を示す必要があります。原則としてA自体は売り買いの対象となるモノを所有したり生産したりすることはなく、あくまでも「売り」「買い」の行為を代行する、或いは仲介する役割を果たします。Aはさらにどのアクターの役割を代行するかによって次の3種類に分けることができます。

1)As:売り手の利益を代表する。売り手の代わりに買い手を見つける役割を果たしますが、見つかりにくい買い手を見つけたり、早く売ったり、売り手の希望する売値で売ったり等のサービスを提供することで存在意義(売り手にとっての利用価値)を示す必要があります。例えば、ホテルや旅館に代わって宿泊客をネットで獲得したり、地方の特産物を生産者に代わってネット販売したりするのがアクターAsとなります。この場合、売り手が何を望んでいるかだけではなく、何が売り手にとって最適かを一緒に考えることも重要となります(この辺は全てのビジネスのアクターAs共通です)。

2)Ab:買い手の利益を代表する。買い手の代わりに見つけにくいもの買い付けたり、専門知識を要する買い物を代行したり等のサービスを提供することで存在意義(買い手にとっての利用価値)を示す必要があります。例えば、ネットオークションでの車の買い付けやローン申込者の資格(年収、負債、預金高等々)に応じた最適な金融機関・商品の検索と手続き(米国で実際にあるサービスです)などがアクターAbとなります。Asと同様に、Abも買い手が何を望んでいるかだけではなく、買い手にとって何が最適かを一緒に考えることが重用となります。

3)Ai:売り手、買い手両方の利益を代表する。つまり、中立な仲介者としての立場を取るアクターを指します。Aiには売り手のグループと買い手のグループの両方を同時に代表し、かつ、どちらのサイドにも立たない中立公正さが求められます。例えばネットオークションにおけるサイト運営者や、複数の会社の保険商品を取り扱うインディペンデント・エージェントなどがAiにあたると考えられます。ネット上のショッピングモールのサイト運営者もAiにあたるはずなのですが、どうも実態はAsとしての役割を果たしているところが多いように感じられます。

さて、上記の3種類のAについて、通常のビジネス上のエージェントと何ら役割が変わっていないではないか、という疑問があると思います。当然のことながら、それぞれのエージェントの役割は、ネットを使用すると言うこと以外は従来のものと全く同じです。一番の違いは、その役割を果たす前の信用確立の方法にあると思われます。従来の方法では、企業自体にブランド力がある場合はそれを使い、それ以外の場合は顧客先へ足繁く通う人的営業努力等で信用を獲得してきました。他にもTVや有力雑誌等へのコマーシャル掲載やツテ・コネなどもありますが、ネットの特性や経済効率を考えるとこれら従来からの手法の有効性は疑問視せざるを得ません。(まったく無意味だということではありませんので誤解のないようにお願いします)
私は、E-コマースでアクターAの役割を果たそうとする者は既に企業ブランドがあるなしに関わらず、利益を代表する側に商取引に関する全ての情報を開示し、その上で自分をエージェントとして使用する意味を説明し、価値を認めてもらうことが一番の信用確立方法だと考えています。つまり、自分は顧客の利益を確立するための代行者であり、自分の報酬は顧客が認めた価値の分だけであることを納得させることが出来るかどうかということです。これが出来れば無名のネットエージェントであっても有名ブランド(大企業)をバックにするエージェントに充分対抗できるはずです。逆に、これが出来ないエージェントはたとえ有名企業がバックにいてもマーケットから淘汰されるはずです。以上が、従来のビジネスとE-コマースの最大の違いではないでしょうか。

デパート業界売上No.1のI○□Nでは徹底した顧客中心の考え方から「売り場」と呼ばずに「買い場」と呼ぶそうです。また、専門分野毎にマイスターと呼ばれる商品の専門家を置き、そのマイスターの役割は「売る」ことではなく、客のニーズを満たすことにあるとのことです。例えば、革靴部門のマイスターであっても、客の本当に必要な靴がスポーツ用具部門にあるウォーキングシューズだと分かれば、そこに連れて行って客に合う靴を勧めるという具合です。これは従来の売り子とは明らかに違います。むしろ本話で紹介したエージェントに非常に近いものがあります。しかし、よく考えるとここで話した内容は大昔から言われている「客は王様」という原点に戻っただけですね。