「信用」と「価値」の確立は従来のビジネスにおいても成功要因と言えるものですが、顔の見えないE-コマースにおいては、特にクリティカルなファクターであり、また、従来のビジネス以上に確立が困難なものと思われます。米国においては既に完全バーチャルよりもクリック&モルタルの方がE-コマースにおいて有利だと言われており、その理由として基礎体力・既存のインフラ・経営体制等があげられています。しかし、私はもっと重要な理由に信用・価値確立の難易度の差があるのではないかと考えています。実店舗がある分クリック&モルタルの場合は完全バーチャルのE-コマースより信用・価値確立のプロセスを比較的容易に(あくまでも比較の問題ですが)進めることができるからではないかと考えられるからです。この両者の比較に関して気の早い人達は「完全バーチャルなE-コマースは無理だ」とか「E-コマースは実店舗の補完としてのみ有効だ」ということを言い出しています。これらの根拠としては米国における完全バーチャルによるE-コマースのスター達の相次ぐ撤退や、AMAZONと BARNES&NOBLEの比較等があるようです。しかし、これらは何れも完全バーチャルが故の失敗とは言えないふしがあり、AMAZONに至っては「死亡通知」は全くの誤りであったと言えそうです。

私は「完全バーチャルvs.クリック&モルタル」の比較論は「りんごvs.みかん」の比較であると思っています。同じ果物類としての比較は出来ても、どちらがより優れているかの比較対照はナンセンスだと言うことです。残念なことですが、この誤った比較論を展開してクリック&モルタルのみがE-コマースの必勝パターンであると説いている人達が増えているようです。つい先日東京で開催されたある国際会議のE-コマース・セッションでもこの比較を行なって「だからE-コマースは実店舗のビジネス戦略の一端として用いるべきである」という結論を出している研究者達がいました。その内容の是非はともかく、彼らの主張しているモデルの成功事例のリストを見れば誰でも首を傾げたくなるはずです。十事例ほどの中に含まれていたのはBARNES&NOBLE、AMAZON、SOFMAP、ASKULなどですが、明らかに「りんご」と「みかん」が混在しているのです。どうも彼らは配送センターを実店舗と勘違いしたか、或いは、完全バーチャルはリアルな配送センターさえも持たないものと思っているようです。E-コマースについて研究しようと思っている学生の皆さん(もちろん学生以外の人たちも!)このような誤った定義と根拠のない風潮に惑わされる事の無いように気をつけましょう。

最後に(E-コマースで成功するための教えとして)「E-コマースで売れるものはニッチのある商品である」と唱えている人達がいます。これは全くの誤りではないのですが、この教えには二つ大きな問題があります。一つは、E-コマースを始める人達はE-コマースそのものが目的ではないということです。つまり「E-コマースをやりたいけど何を売ったらいいだろう」と言って始める人たちはまずいない(一部の例外を除いては)でしょう。もう一つは、E-コマースで売れるのはニッチな商品だけではないということは多くの成功事例が既に実証済みです。その辺にある書店で普通に購入できる本や文房具であってもE-コマースで売って成功することは可能なのです。ですから、私はE-コマースに関する講演ではいつでも次の事を強調しています。「実店舗で売れるものは殆んど何でもネット上で売ることができるはずです。ただ、商品の性質によって信用・価値確立の難易度や方法が異なってくる事を理解して戦略・戦術を立てる必要があるのです。」