80年代の試みがテレワーク普及に繋がらなかった理由としては2つ考えられました。一つは、情報技術(ハード・ソフトの両面)の未成熟さと通信インフラの未整備がありました。ハード面では、PCの機能性・価格の問題があり、ソフト面では、マルチメディアやグループウェアなどのテレワーク支援に必要なソフトがまだ未発達な状況でした。通信インフラでもネットワーク技術の未発達や通信速度・容量の問題も大きな壁となっていました。従って、この頃に本格導入に取り組んだ企業があったとしても、実質的にはかなり難しかったでしょう。二つ目の理由は、テレワークに対するニーズの持続性が欠如していたという点です。二度あったオイルショックは、どちらも一過性のものでした(喉もと過ぎればなんとやら...です)。また、大気汚染や交通渋滞などにしても地域や特定の都市に限定したものであり、企業がテレワークを本格導入するためには非常に弱いインセンティブであったと言えます。

さて、90年代に入ると各国におけるテレワークへの動きに大きな差が出てきました。米国では工場の海外移転が加速し、国内の失業率も7%強に達していました。そんな中、二つの大企業でほぼ時期を同じくしてモバイルワークの大規模導入(各社とも1万人以上)が始まりました。導入の動機も非常に似通ったもので、コスト削減と営業効率の向上だったのですが、問題は何故その様な大規模導入が可能だったのかと言うことです。実は、両社ともモバイルワークの実験は細々としたものを数年前から行っていましたが、そこから本格導入に移る気配はまったくなかったのです。ところが、1994年ころに経営陣が「モバイルワークを採用してコスト削減を実現するか、或いは大規模なレイオフ(一時解雇)を受け入れるか」の二者択一を労働組合に対して要求したのです。

これらの導入は成功事例として多くの調査・研究報告がされています。コスト面で見ると、モバイルワーク導入に要する一人当たりのコストは4千~5千ドルとなっていますが、一人当たりのコスト削減額は年間で1万~2万ドルとなっていました。また、顧客の訪問回数や対面時間も数十~100%アップしたという報告がされていました。つまり、経営陣が目指したものは達成されたと言えるでしょう。

また連邦政府も、公務員を対象としたテレワーク導入プログラムを開始し、各部局に対して罰則付きで達成目標を課したのです。さらに地方自治体の中にも大気汚染・交通渋滞緩和を目的としたり、地震などの災害に対するリスク管理方法としてのテレワークに期待を寄せ導入に積極的なところが出てきました。その様な動きから米国におけるテレワーク人口は急激に増加し、90年代中過ぎには1千万人に達したという報告がされました。

一方欧州では、以前から北欧圏を中心にテレワークへの取り組みが行われてはいましたが、欧州全体としてテレワークに関心を寄せ始めたのは1992年のEU統合後になります。

北欧圏や英国などはテレワークによる地域活性化を主な目的としていましたが、EU全体としては、知識社会への移行やテレワークによる知的産業の空洞化への懸念などを共通課題として調査検討を行っていたようです。2000年にはEUにおけるテレワーク人口は1千万人に達したとされ、EUにおけるIT関連の10大重要課題のトップにテレワークが挙げられました。

しかし、欧州各国のテレワークへの取り組み方には、かなりの温度差があります。基本的に北の国々(フィンランド、スウェーデン、デンマーク等々)が熱心で、南下するに従ってテレワークへの関心が薄れていくようです。これは、北の国々にはテレワークで解決したい逼迫した事情があるのに対して、南の国々(フランス、イタリア、スペイン等々)には、その様な事情がないか、或いは、必要性に気がついていないことが原因のように思われます。

欧米の事例から、テレワーク導入の動機が組織側(或いは、経営側)にあり、強烈なトップダウンで行うことが普及の条件と言えるのではないでしょうか。