バブルの影響もあり、日本でのテレワーク実験(主にサテライトオフィス実験)には、お金を掛けていました。また、テレワークの導入理由に、ワーカー・経営者・社会の三者のメリットを謳ってはいたものの、実際の実験内容はワーカーのメリットのみを求めたものでした。しかも、そこで行われていた実験内容を企業に導入した場合、そのメリットを享受できるのは、一部のエリート社員だけであっただろうことは明白でした。何しろ、自己管理ができて、仕事もできて、自己完結型の仕事を持っている人がテレワーク可能とされていたのですから。その上、テレワークするのは週に一回か、月に二、三回程度とされていて、実験に参加したテレワーカーも、その上司も、その程度の頻度が適切と考えていました。しかし、その様なテレワークの制度を導入したとしても、全てのワーカーが週一回の頻度でテレワークすることは、マネジメントへの負荷の上からも考えられないことです。従って、この当時に行っていた実験は、たとえバブルの弾けるのが二、三年遅れていたとしても、本格導入に至ることはなかったでしょう。

バブルが弾けると、二年以内にほとんどのサテライトオフィスやテレワークセンターの実験が本格導入に移行することなく終了してしまいました。特に、1994年から1996年にかけては、日本におけるテレワーク冬の時代と呼べるかもしれません。企業経営者や官僚の間では、テレワークに対する不信感が蔓延していました(私は、これを称して「狼少年症候群」と呼んでいます)。それまでに何度かあった社会的問題の解決策としてテレワークが取り沙汰され、その度に期待を裏切ってきたわけですから、仕方ないことではありますが。私は、1996年に17年ぶりに日本に戻って来ましたが、その当時、「テレワークについて研究している」と言うと、「ああ、あれね。でも、あれはダメでしょ」ということを何人かの経営者や官僚から言われました(そんな直接的な表現ではありませんでしたが、同じようなことです)。

また、その当時は、モバイルワークが、まだテレワークとしては認められていませんでした。私は、日本でのテレワークは、まず、モバイルワークの普及から始まるのではないか、と予想していましたので、そのことを関係団体や研究者などに話したのですが、反応は今一つでした。ある有名なテレワーク研究者に至っては「あれは、直行直帰と言って、昔からある働き方で、それにモバイルギアを持たせただけであって、テレワークではない」と言い切る始末でした。それからというもの、モバイルワークは、今までの直行直帰とは根本的に違うということを説いて回るのが、私の一つの大きな仕事になってしまいました。その違いを簡単に説明すると、従来の働き方では、通勤が前提で、たまに直行直帰を行うのに対して、モバイルワークでは、直行直帰が前提で、必要がある時にだけ出社するということです。前者では、もちろん、働き方や情報共有のあり方に何の変化もありませんが、後者では、ワークフローや情報共有のあり方を大幅に変える必要があります。また、後者の場合にのみ大幅なデスクスペースの削減が可能となります。また、モバイルワークでは、上司・部下・同僚とのF2Fのコミュニケーション機会が極端に減ることから、上司のマネジメントスキルと関係者全員のコミュニケーションスキルも向上することが知られています。いずれも、従来の単なる直行直帰では見られなかった現象です。